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人質の境遇から天下人にまで上り詰めた「我らが神の君」こと徳川家康。
武家の棟梁たる征夷大将軍の地位を嫡男の秀忠に受け継ぎ、徳川の世を磐石なものとしつつありました。
そんな二代目・秀忠には竹千代と国松という二人の息子がいましたが、秀忠と母の江姫は、どうやら弟の国松がお気に入り。徳川の跡目を譲りたいようです。
兄を差し置いて跡目を継がせて本当によいものか、家康は二人を試すこととしたのでした。
「その場に座れ」竹千代と国松の反応は
それはある雨の日のこと。
「おぉ、竹千代に国松。よう参ったな」
「「はい、お爺様!」」
「うむ。二人とも良い子じゃのぅ」
家康は目に入れても痛くない孫たちを迎えてご機嫌です。
「で、さっそくなんじゃが、二人とも庭に出よ」
家康の言葉に、周囲の者たちは驚きました。
「大御所様、表は雨降りにございますれば……」
「せめて草履や傘をお持ちいたしますゆえ、しばしお待ちを……」
しかし家康は有無を言わせません。
「よいから、今すぐ出よ」
「はい!」
裸足のまま、元気よく庭に飛び出したのは竹千代でした。国松は、モジモジしてその場に留まったままです。
「あの、父上?」
「義父上は国松を雨ざらしにしようと仰せでしょうか?それはあまりに気の毒というもの……」
秀忠と江姫の戸惑いに構わず、家康は命じます。
「わしが『出よ』と言うたら出よ。竹千代は既に出ておろうが、そなたら竹千代の心配はせんのか?」
そう言われてしまったら、出さない訳には行きません。国松は袴のすそを高く持ち上げ、しぶしぶ庭先へ出たのでした。
「はい、出ました!」
「……はい、出ました」
竹千代は元気よく、国松は今にも消えそうな声でそれぞれ答えます。
二人の足は早くも泥だらけ。これを見た家康は、続けて二人に命じました。
「うむ。では二人とも、その場に座れ」
「はい!」
竹千代は泥に尻跡を刻まんばかり、勢いよく座り込みました。国松はしばし立ち尽くした後、袴のすそをギリギリまで持ち上げながらようやく座ります。
「次は何をいたしましょうか!」
「……」
二人とも、上等な着物がずぶ濡れの泥だらけ。今にも泣き出しそうな国松に構わず、竹千代は家康に尋ねました。
ここに来て、家康は祖父の顔に戻って二人に命じます。
「二人とも、次は風呂で身体を温めて参れ。誰か、着替えも支度せよ」
こうして家康の試験は終わったのでした。竹千代も国松も、風邪をひかないといいですね。
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