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美しい別れ際を演出する「後引きしぐさ」の極み

美しい別れ際を演出する「後引きしぐさ」の極み

久しぶりに会った人としばらく時間を共にして、やがてその別れ際、あなたはどんな風に相手と別れますか?「バーイ!」「シーユー!」はアメリカ人の別れ。日本人ならしみじみと、「後引きしぐさ」で決めたいものです。

「後引きしぐさ」は江戸の商人たちが人間関係を円滑にする知恵として受け継いできたという「江戸しぐさ」の一つ。

お別れする際、相手が立ち去ってから、自分もさっさとその場を去っていくのは野暮な人。相手がもう一度振り向いた時に、自分の後ろ姿を見せていては、「あんたなんてもう二度と会いたくない」と言っているようなものです。

自分も振り返って、相手が振り返るとまたしばし視線を合わせて、相手との別れを惜しむ。恋人同士でなくても、なんとなくこうした別れ際を演出できる人は「粋な人」ですよね。

もちろんビジネスや相手が目上の人の場合は、姿が見えなくなるまでこちらが見送るのが礼儀です。そう旅館の女将さんのように、お客さんのタクシーが見えなくなるまで見届ければ、それだけで「来てくださってありがとう」という言葉以上のものが伝わります。

そもそも昔から「後引きしぐさ」という名前が付けられていた訳ではありません。当時の人から見ればそんなことは常識中の常識。古い日本人の流儀を見なおそうと「江戸しぐさ」というものが戦後まとめられてから、こうした名前で呼ばれるようになったのです。それまでは名前を付けるまでもない、当然の礼儀だったのでしょう。

さらに「後引きしぐさ」の上級ランクを目指したいという方には、こんな強者もいます。時代をさかのぼって「徒然草」、教科書にもよく載せられるメジャーな章段「九月二十日のころ」に登場する女性の別れ際。

相手をいつまでも見送っていると、かえって相手に気を遣わせてしまうということで、相手を見送るとみせかけて「月を見上げている」。これは風情あり過ぎで、かなり上級者でないとできないですね。吉田兼好も「普段から風流な生活してる人じゃないとできない技だよなぁ」(超訳)と言っています。

月が美しい季節です。この上級の「後引きしぐさ」、風流人になったつもりでトライしてみてはいかがでしょう?

江戸しぐさ(ウィキペディア)

 

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