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絶滅したカワウソが、日本に残していったかも知れないもの

絶滅したカワウソが、日本に残していったかも知れないもの

photo by law_keven on Flickr (↑ ただしこいつはニホンカワウソではありません)

ニホンカワウソが絶滅したというニュースは、日本中に衝撃を与えました。かつては全国の川に生息していたという、カワウソ。しかし、その保温性の高い毛皮を求めて乱獲が繰り返され、また自然破壊により住環境も大幅に悪化。70年代に高知県・須崎で目撃されたのを最後に、あの愛くるしい生き物はこの国から姿を消してしまったのです。

70年代といえば、相当に昔。それ以降に生まれ、かつそれなりに歳を食った人にとっては、カワウソといえば「かわうそ君」になってしまうのかも知れません。カワウソを擬人化したのか、あるいはカワウソの着ぐるみを着た狂人なのか、とにかく奇怪な存在である「かわうそ君」を主役に据えた90年代の不条理ギャグ漫画『伝染るんです。』。それまでの不条理の笑いが、ひたすら常識の異化と破壊にいそしんでいたのに対し、破壊された世界の先で確実に「わかる」何かを感じさせることで、新しい笑いの世界を提示した、傑作です。将来的には、同時期の「ごっつええ感じ」で展開された松本人志たちのコントと共に、笑いさえ越えた日本文化全体のターニングポイントとして記憶されるかも知れません。

眉毛が異常に太く、各種の強迫観念に駆られ、理由もなく色んなことに執着した、「かわうそ君」。そのキャラクターとアティチュードは、90年代にはバブル経済へのアンチに見えました。「忘れものを、届けに来ました」と、やはり同時期に現れたトトロと同じく、忘れた何かを持ってきたようにも見えたものです。どちらかといえば、忘れたままにしときたかったものを、鼻先へ強引に突き出すような不気味な形ではありましたが。


ニホンカワウソの絶滅は、90年代前半と考えられてるそうです。奇しくも、『伝染るんです。』が一世を風靡してた頃と、同時期。ひょっとしたら「かわうそ君」は、消費社会によって追いやられたカワウソの魂が、作者・吉田戦車に憑依したものだったのかも知れません。一時は精神病理の病跡学の対象にさえなった『伝染るんです。』の壊れた世界。などというと吉田戦車の才能に失礼ですが、でも不条理ながら暑苦しいまでの温もりを持った「かわうそ君」を思い出すと、そんなことも考えたくなります。

日本人の笑いのボキャブラリーを増やして、去っていったのかも知れない、カワウソ。その笑いさえ消費の1アイテムで終わらせるか、それとも消費を超えた別の何かに昇華できるか。それは、芸人さんやクリエイターより、むしろ普通に生きて笑ってるだけの私たちにこそ、かかってると思うのです。

ニホンカワウソ – wikipedia

伝染るんです。 – wikipedia

 

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